裁判員制度における
障害者裁判員への配慮に関する提言

 今年5月21日から始まる裁判員制度の理念は、障害者を含む多種多彩な国民が司法に参画していくことにあります。しかしながら、障害者にとって裁判員としての職務を遂行するうえで必要な補助者・補助手段などの課題が多く、最高裁判所から具体的な方策が示されていないために、障害者等のあいだでは不安の声があがっています。

 そこでピア大阪では、2008年7月と2009年3月の二度にわたって人権講座にて、この裁判員制度を取り上げ、裁判員制度における障害者裁判員への配慮等について議論を深めてきました。

そして、3月の人権講座で、「裁判員制度における障害者裁判員への配慮に関する提言」を会場の参加者とともにまとめ、最高裁判所に送付しました。

 以下に、その全文を掲載します。

       2009 年 3 月 21 日

 

最高裁判所事務総局様

自立生活支援センター・ピア大阪 人権講座 出席者一同

 

 

「裁判員裁判における障害者裁判員への配慮に関する提言」

 

 あと2カ月で裁判員裁判が始まります。最高裁判所をはじめ関係者におかれましてはその準備にお忙しいことと拝察いたします。

 自立生活支援センター・ピア大阪では、昨年7月に引き続き裁判員制度に関する2度目の人権講座を3月21日に開催いたしました。この講座の中で裁判員制度についてさまざまなことを学び、その意義や問題点を明らかにすることができました。特に障害者が裁判員になったとき、スムーズにその職務を遂行することができるためには、どのような配慮が必要かについて課題を明らかにすることができました。

 マスコミ等で報じられている裁判員制度に関する配慮内容を考えるとき、障害者の立場からすると裁判員に就くことに大変不安を感じます。

 障害があるというだけでは裁判員の候補者から除外されることはありませんが、「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」については裁判員になることができない(裁判員法第14条第3号)と除外規定(欠格事由)が設けられており、また、「障害により裁判所に出頭することが困難である」場合には裁判員になることについて辞退の申立てをすることができる(同第16条第8号イ)と辞退規定が設けられております。したがって、障害者が裁判員になるためには、裁判所まで行くことができるようにする必要があり、その職務の遂行に支障が生じないようにする必要があります。そのためにはさまざまな配慮がなされなければなりません。

 障害者が裁判員になるためのさまざまな配慮については、最高裁判所をはじめ関係者の間で検討されているとの報道等があります。そして、裁判員裁判の実施に向けて配慮等の実現のための取り組みがなされていることも報道されております。しかし、それらの配慮の詳細については明らかにされていない状況があります。

 つきましては、現在までに検討された配慮の詳細を冊子等にまとめて配布するなどして明らかにするとともに、3月21日にピア大阪主催で開催された人権講座における出席者一同によって採択された以下の提言内容をそれに反映させてくださることをここに要請する次第です。

 

 

− 記 −

 

  提言内容

 1. 証拠書類等の点訳をすること: 裁判員裁判は口頭でのやりとりを中心にして審理をするので、証拠書類等の文章は出さないとされています。しかし、昨年7月に東京で行われた裁判員裁判の模擬裁判では、審理の内容を簡単にまとめたメモが配布されています。視覚障害者の裁判員がいたにもかかわらず、それは点訳されませんでした。たとえメモ程度のものであったとしても、晴眼者(目の見える人のこと)にはメモが配布されるのに、視覚障害者や盲ろう者(目と耳の両方に障害を併せもつ人のこと)にはその点訳されたものが配布されないならば、裁判員の職務遂行上著しい情報の格差を生ぜしめることになります。その結果、法廷での審理や評議に充分に参加することが困難な状況になりかねません。

 2. 音声ガイドする者をつけること: 事件の事実認定や被告人への質問において、被告人の表情や態度は評議・評決の際の大きな手がかりになることは多言を要しません。しかし、視覚障害者は被告人の表情も態度も見えません。法廷内の状況やわかりにくいことなどはいわゆる右陪席の裁判官が説明するとのことですが、それでは裁判官の主観が中心になった説明になりかねません。音声による説明に習熟している第三者を配置することが必要です。このことによってこそ客観性が保たれるというものです。そうしなければ、視覚障害者や盲ろう者の裁判員としての判断を誤らせかねないことになります。

 3. 事件の内容によっては「裁判員に選任しないこともあり得る」とされていますが、裁判員法第14条第3号を安易に適用すべきではないこと: 証拠写真や録音テープを重視するような事件では、証拠物を見聞きすることが困難な障害者を、裁判員法第14条第3号の該当者として選任しないこともあり得るとされています。事件の性質によってはこのような措置もやむを得ない場合があることは否めません。しかし、どのようにしたら証拠写真の内容を視覚障害者や盲ろう者に伝えることができるのか、証拠の録音テープの内容をどのようにしたら聴覚障害者や盲ろう者に伝えることができるのかを充分に検討することなく、安易にこれらの障害者を裁判員法の欠格事由の該当者として除外すべきではありません。そのためにも障害当事者や障害者団体との綿密な話し合いをしたり連絡を取ったりして、裁判員の職務を遂行できるための方法を検討していただきたいのです。

 4. 裁判所の費用で且つ障害者の自薦ヘルパーによる移動支援の体制を充分にとること: 単独での移動が困難な障害者に対しては、ガイドヘルパー等の支援体制を整え、そのための費用は裁判所が負担するとのことが表明されています。しかし、詳細については明らかにされていません。視覚障害者や盲ろう者、肢体障害者の中には自薦のヘルパーによる介護を受けている者も多数おります。単にガイドヘルパーが裁判所から派遣されるだけではきわめて不充分なのです。たとえ介護に慣れている者が派遣されて来たとしても、初対面の人に介護される障害者にとっては緊張を強いられたり、不安を感じたりすることが多々あります。このような状態で裁判員の職務に臨んだ時には精神的疲労のために裁判員の職務に支障をきたしかねない虞があります。したがって、自薦ヘルパーによる移動支援を受けることができ、その際の費用はすべて裁判所が負担することを明確にしていただきたいのです。さらには、裁判所内での移動や介護(食事・トイレ・体位変換等の介護)についても同様の方法でなされることが必要です。

 5. 障害者が習熟しているコミュニケーション方法を身につけている通訳者を充分に配置すること: 聴覚障害者や盲ろう者のすべてが手話によるコミュニケーションをとっているわけではありません。聴覚障害者の場合には口話法や筆記(筆談)等、盲ろう者の場合には触手話(手話を手で触れて読みとる方法)や指点字(指の上に点字タイプライターのキーを打つようにする方法)や手書き文字(手のひらや甲に文字を書く方法)等のさまざまなコミュニケーション手段を使っております。「通訳」といえば「手話」と安易に解釈しないことが必要です。単に通訳者を配置するということだけに止まるのではなく、障害者本人が習熟しているコミュニケーション手段を身につけている通訳者の配置が必要であり、その通訳者を自薦できるようにすることが必要です。誰の通訳でも通じる場合もありますが、そうでない場合も大いにあります。このことを充分に認識していただきたいのです。さらには、自薦であったとしても、費用はすべて裁判所の負担にすることはいうまでもありません。

 6. 通訳者の研修を充分に行うこと: 会話の内容を手話や触手話通訳したり、要約筆記通訳したり、指点字等による通訳をしたりするには高度な技術を要します。既存の通訳者は法廷内での通訳には慣れていません。したがって、通訳体制に万全を期するためには、通訳者に対する研修が必要です。裁判員裁判においては難しい法律用語はわかりやすい言葉に言い換えることになっていますが、それだけでは通訳に万全を期したとはいえません。法廷内でのやりとりや、評議の際のやりとりの内容を聴覚障害者や盲ろう者に「完全」に伝えるためには、通訳者に対する研修は必須要件です。研修を重ねることによって、通訳者の通訳技術は一層高まるというものです。この研修が充分に行われることによって、聴覚障害者や盲ろう者の裁判員は、その職務を充分に果たすことができるようになるということを認識していただきたいのです。

 7. メモを取ったり資料をめくったりする介護者を配置すること: 通訳を受けているとメモを取ることが困難です。また、肢体障害者の中には資料をめくったりメモを取ったりすることが困難な者もいます。したがって、これらのことを手助けする介護者の配置が必要です。それは障害者の自薦が最も望ましく、その者に対する報酬等のすべての費用は裁判所の負担でなされることが必要です。

 8. 裁判員および裁判員候補者が宿泊の必要のある場合には、介護者の宿泊費等も裁判所が負担すること: 裁判所から遠方に居住している者が裁判員選任手続きに出頭したり、裁判員の職務を遂行したりするときに宿泊をせざるを得ないことがあります。その費用については裁判所が負担するとのことが表明されていますが、介護者の宿泊費についても裁判所で負担することが必要であるのはいうまでもありません。また、肢体障害者が宿泊するホテル等の宿泊施設がバリアフリーになっていることが必要です。

 9. 障害当事者や障害者団体からの意見を充分に取り入れること: 法廷内のバリアフリー化はすでになされているとのことですが、障害当事者や障害者団体のチェックを受けることが必要です。見た目にはバリアフリー化されているように見えたとしても、障害当事者にとってはバリアフリーになっていないことが多々あります。また、障害種別や障害の程度によっては介護以外の支援が必要なこともあります。例えば、知的障害者の場合にはわかりやすい言葉で通訳するだけではなく、写真や絵などを使って説明することも必要な場合があります。また、言語障害が強い障害者の場合には慣れた介護者がいないと聞き取りが困難なこともあります。したがって、特別な配慮をしなければならないことになります。どのような場合に配慮が必要かは、障害当事者や障害者団体との話し合いを充分に行うことによって認識できるといえます。

 

 以上述べてきた9点にわたる提言は、最低限必要なものばかりです。木目細かな配慮がなされることによって、障害者は「国民の義務」である裁判員の職務を遂行することができるようになります。

 最後に、繰り返して強調しておきますが、障害があることを理由にして安易に裁判法第14条第3号の欠格事由を振りかざして障害者を裁判員から排除するのではなく、どうしたら障害者が裁判員の職務を果たすことができるのかを前向きに考えてその実現のために努力してくださることをお願いする次第です。

            以上

連絡先
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